想你
 「親愛なるあなたへ。
  字がきたなくてごめんなさい。
  わたしは日本語を学校で勉強したことがないので、字を書くのが苦手です……。
  
  ちょっと仕事を頑張り過ぎちゃって、体が壊れてしまいました。
  毎日休み無くお酒を飲んでたらこうなっちゃうよね……。  
  私は今まで26年間生きてきて、人を好きになったことがありませんでした。
  この仕事を始めて、いろいろな男の人を見て、
  信じることができなくなっていたし、人を好きになってしまうと、
  この仕事は終わりだから……。
  6年間この仕事をしたけど、もしそんな人に出会っても家族の為に、
  その気持ちだけは抑えようと考えてたの。
  それに、あなたに出会うまでは、そんな人に会うこともありませんでした。
  でも、あなたと出会って、生活を共にして、
  初めて自分の幸せを考えてしまいました。
  気持ちを抑えられなくなる自分が許せなくて、何度も、何度も、
  もう会わない方がいいって思いました。
  でも会いたかった。
  日本語だとそれを「初恋」?っていうんだよね?
  いっぱいの人がいる中で、あなたに会わせてくれたこと、
  それは、きっと神様が最後にくれたご褒美だと思う。
  あなたに会えて本当によかった。
  あなたと一緒にご飯を食べて、買い物をして、2人で街を歩いて、
  綺麗な花を見て、一緒にテレビを見る。
  それだけで、すごい幸せだった。このままずっと続けばいいと思った。
  あなたが私に言ってくれたように、あなたの奥さんになりたかった。
  「結婚しよう」って言われて本当に嬉しかった。
  そう思ってくれる人に会えたことが本当に幸せでした。
  でも、いい返事がしてあげられなくてごめんなさい。
  あの時は、もう病気で先が長くないことを知っていたの……。
  あなたの奥さんになって、朝も夜もあなたが食べたいご飯を作って、
  あなたのシャツにアイロンをかけて、仕事の話を聞いて、そうしてあげたかった。
  あなたの子供も見せてあげたかった。
  2人の子供ならきっとかわいいよね?
  私が大好きだった、あなたの大きい目に似た男の子がよかったな……。
  3人でいつまでも幸せに暮らせたらどんなにいいかと考えました。
 
  でもできなかった……。
 
  ごめんね。本当にごめんなさい。
  私あなたに何もあげられなかった……。
  あなたは私の夢をかなえてくれました。
  二人で写真を撮ったのを覚えていますか?
  あんな風に綺麗なドレスを着て、
  好きな人と結婚式の写真を撮るのが小さい頃からの夢だったの。
  だからあなたには感謝の気持ちでいっぱいです。
  二人が離れてから何度も何度もこの写真を見たんだよ。
  夜寝る前も、朝起きても、ご飯食べてる時も。
  天国にこの写真を持っていけたらいいのにね。 
  あの時なんで海で撮ったか分かりますか?
  あなたと四季の思いでが欲しかったの。
 
  春は二人で桜を見に行って、夏は二人で海に行って、
  秋は二人でおいしいものを食べて、冬は餃子をみんなで食べて……。
 
  だからもう大丈夫。
  本当はすごいすごい寂しいけど、あなたとの思いでがあるから寂しくないよ。
  最後にもう一度だけあなたに会いたかった。
  そしていつもみたいに優しく頬を撫でて欲しかった。
  あなたが幸せになってくれることを祈っています。」
 その手紙を読んだ時、全身の細胞が泣いていた。
 手紙の封筒にはあの時とった二人の記念写真が入っていた。
 体にある水分はもうなく、何も出るものがない程泣いた。
 人間はここまで涙が出るものだと初めて知った。
 「梅梅の為に生きる。
  梅梅が見ることができなかった世界を見て、
  梅梅が送れなかった幸せな生活をする。
  そして天国で待っている彼女にその話を聞かせてあげたい」
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