海の花は雪
あの紙切れを、ぬれないように広げてハルに渡した。

自分はもう、その呪文を見なくても言えるぐらい頭に入っていた。

「分かった…かかるといいね」

ハルも足が着かなくなってきて、天井が50センチほどを残す所まで海水が上がってきた。

ハルは自分を同じ顔の位置へと持ち上げて、立ち泳ぎをしてくれている。

…心臓が、うるさいぐらい早く鳴っている…

ハルを見ると穏やかに笑っていて、少し安心させられた。

もう一度呪文に目を通そうとした時、首の所まで水が迫ってきた。

「…じゃあ、せーので言おうか?…せーの…」

一呼吸して、ハルがかけ声をかけた。

「″ハスミ・クライス・イルギス・スイギ″」

自分とハルの声が重なった。

言い終わった時には、もうしゃべる事は出来なかった。

ついに海水が天井まで届いて、自分達を飲み込んだからだ。

体中に水圧を感じて、死の恐怖が胸をしめつけていく…!

自分は固く目を閉じると覚悟を決めた…

…ハルのサックス…きいてみたかったな…ふと、そんな事を思った…
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