海の花は雪
「…かもしれない…」

「じゃあ、この話はなかった事にしよう…この手首の件は、自分一人で何とかする…」

「え?どうやって?ってか、ダメだよ一人なんて!」

ハッと現実に戻り、深谷君の顔を見た。

「この本の作者に、会ってみようと思う…」

「なるほど、確かにいい手だね。でもそれじゃ、ますます深谷君一人じゃダメだよ…オレじゃ頼りにならない?」

この健気な少年に、せいいっぱい笑いかけた。

何歳も年下の少年に心配されるなんて、情けないぞ〜オレ…

「…ハルは、信頼できる人だと思う…」

深谷君は、うつむいて考えると、自分を小躍りさせるぐらい嬉しいセリフを口にした。

「じゃあ決まりね!そうと決まれば、早速会いに行こうか?」

「あ、その前にちょっと待って…」

「何?」

「書庫に行ってみようと思う…」

「危険じゃない?それって…」

「引っ張られそうになったら、ハルが引き戻して…」

「分かった、オレの方が力あるからね…」

たぶん大丈夫…と自分に言い聞かせながら、カウンターの向こうに見える書庫の扉を見つめた。
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