海の花は雪
司書の先生にお願いすると、書庫の中に入れてもらえた。

例の問題の扉の前に立つと、自然に心臓がドキドキしてきた。

この扉の向こうに、海底の世界が広がっているかと思うと、ワクワクしてくる…

と同時に、昨日あった出来事が夢だったんじゃないかとさえ思え…

相反する気持ちが入り乱れて、自分はノブに手をかける動作が緩慢になった。

「…本当は…」

隣に立っていた深谷君が、扉をジッと見つめながら呟いた…

小さな頭が自分の肘辺りにある少年を見下ろすと、目があった。

「夢だったんじゃないかって、気がして…」

「オレもだよ、深谷君。深谷君と一緒で良かった…オレ一人じゃ心細いからね…じゃあ開けるよ?」

緊張した深谷君に笑いかけるとノブを握りしめ、ゆっくりと扉を向こう側へと押した。
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