海の花は雪
「あ〜そうなんですか?知らなかったな〜あははは…」

フラフラその場を離れると、図書館の外へ出た。

見てはいけない物を見た気がして、足早に深谷君と二人で中庭へと来ていた。

それから、食堂前の広い庭に置かれたベンチに並んで腰をかけると、脱力した。

ベンチの周りには大きな木が植えられていて、真夏の日差しをさえぎってくれていた。

木影の下は、風が吹くと涼しく…目の前の小さな噴水の水が、涼やかな音を立てていた。

まだ昼には早い食堂は、ガランとしていて、風を通すために窓が開放されていた。

セミの鳴き声が時雨のように、シャワシャワと辺り一帯に響いている…

「…どうする?」

先に口を開いたのは、自分だった。

手にしたバックの中には、あの本が入っている…

深谷君は、しばらく考えたあと自分を見上げて、しっかりとした口調で言った。
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