デキちゃってない結婚
「今日はもう帰りました」

　そう何度も夏歩が言っているにも関わらず、男性客はアイドルを出待ちするように動こうとはしなかった。

「佳奈ちゃん人気だね」

　少しひねくれた感じで夏歩の後ろから真理子が話しかけてきた。

真理子は仕事中にも関わらず、椅子に座って編み物をしていた。

夏歩が振り返り溜め息をついたあと、真理子に向かって注意したが、真理子は、はいはい、とまるで訊いてなかった。

美月にセーターを頼まれてから、真理子はしっかりと予定をたててセーターを作っていた、無駄にスケジュール帳まで買った。

普段から編み物はするがセーターという大物と深夜の格闘をするのは初めてだったからだ。

まぁこういう部分は美月が思ったようにキチンとしている気はするが、仕事中に編み物をするところを見ると、やっぱり真理子はキチンとしていない。

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