甘いケーキは恋の罠



「ねぇ……いつもバスの中で僕のこと見ていますよね?」



――ドキッ――



驚いた。まさか気付いていたとは思わず、毎日バスに乗る度に彼を見ていた。


「あっ、のっ………。」


頬を包んでいた右手が私の顔の輪郭をなぞるように滑る。


その行為に、見つめていたことが知られていたことに、心拍数が上がる。


唇に彼の指先が触れ、ゆっくりと撫でられる。


心臓が異様なまでに脈打つ。


私の唇に触れていた指がそっと離れ、彼の唇へと運ばれる。


その1つ1つの動作に底の無い穴に落ちてゆくように意識を持っていかれる。


そのまま指が彼の唇へと付けられ、舐めとられる。


「チョコレートがついていましたよ。」


その魅惑的な表情に、甘美な声に背筋にぞわっとした何かが走った。



< 11 / 52 >

この作品をシェア

pagetop