甘いケーキは恋の罠
そんな私にふっ、と笑みを漏らし匠さんは手元へと視線を外した。
「気になる女性がチョコレートが好きだと聞いたもので…。」
先程のあの見つめ合っていた時間が嘘だったかのように、時が進みだした。
「はぁ……。」
本当は匠さんの話など耳に入っていなかったのだが、曖昧に返事をした。
それからは、ケーキを作る匠さんの指先を見るだけで何も言葉を交わさなかった。
流れるような匠さんの手捌きに引き込まれていく。
知らず知らずの内に隣へ移動していたようで、匠さんは困ったように眉を下げて笑っていた。
「ごめんなさいっ!」
身を引こうとするとその前に引き寄せられて匠さんに肩を抱かれる状態になっていた。
「口開いて?」
思わぬ匠さんとの密着に顔が赤らむ。
匠さんが言った言葉が聞き取れなくて聞き返す。
「…え?」