甘いケーキは恋の罠
嵐の様な人
「どうぞ、召し上がって下さい。」
チョコレートケーキと紅茶を出された。
1口食べると甘い、かといってしつこくないチョコレートの味が口の中一杯に広がる。
思わず感嘆のため息が零れてしまった。
「言葉では言い表わせないくらい、とっても美味しいです!」
匠さんの顔を見つめて思ったことを素直に伝えた。
「ありがとう。…でも、何かが違う。何かが足りない気がするんです。」
眉間に皺を寄せて考え込む匠さんだが、正直私には足りない何かが全く分からなかった。
――こんなに美味しいのに…。やっぱり私みたいな素人には分からない味の差があるのかな……?
「新井さん、もう9時を過ぎていますが御夕食の予定はありますか?よろしければ、御一緒いたしませんか?」
ケーキを平らげ、食器を洗い終えたところで匠さんに声をかけられた。
夕食を一緒に食べるという、なんとも魅力的な言葉に思わず頷く。
「はい。御一緒させて下さい。」