甘いケーキは恋の罠



匠さんからジャケットを借りたことで、とても暖かくなった。


否、匠さんのジャケットだから熱くなった。


私は長い袖を僅かに握り締めた。


――相模さんってよく分からない…。
昨日出会ったような私と食事しても楽しいの……?
それに………。


「着きましたよ。こちらです。」


考え事をしていると、ふいに匠さんに声をかけられた。


「あっ、はい。」


慌てて返事をする。


匠さんが連れて来てくれた店は、路地が入り組んだ場所にあるこじんまりとした良い雰囲気の店だった。


青い暖簾を潜り、中へ入ると数人の客が見えた。


奥には生け簀があり、魚が自由に泳いでいる。


「あら、匠君。いらっしゃい。」


常連客なのか店の人である中年の優しげな女の人が親しげにそう声をかけ、席まで案内してくれる。



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