恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
「………さいてー……」
……ん?
小さな声が耳に入り振り返った。
俺達の座っていた屋上の入口の側の壁の反対側に一人の女子が座っていた。
「誰?」
聞くとその子はそっと顔を上げた。
「立花……真梨恵です」
あ。
隣の席の女。
地味で暗くて、いつも隣にいるはずなのに、まるで存在感がない。
だから今もずっとそばにいることに気付かなかったんだな。本当に影の薄い女だ。
「…何してんの」
「別に…。昼食を取っていただけです」
「……ふぅん。ね、さっき『さいてー』って言った?」
「…言いましたけど?」
立花は俺の質問を無視する訳でもなくいちいち答えながら、先ほどの悪態に対して悪びれる様子もなく、手元の弁当をつついて口に運ぶ。
「あ……そ。」
俺はそんな彼女を責める気力も起こらないまま見ていた。
「……何ですか」
しばらくして立花が聞いてきた。
「は?」
「私、あなたなんて趣味じゃないから。悪いけど他を当たって下さい」