恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
――「司!」
ようやく彼に追い付き背後から名前を呼ぶ。
司はピタリと足を止めた。
だけど振り返らない。
いい。そのままで。
私の話を聞いてくれるだけで。
「嬉しかったの!本当は!
どうしようもなく!
……ずっと、あんたが好きだった!」
「………」
「ふぇ……っ、うっ…」
涙で顔はぐちゃぐちゃ。
走ったせいで髪もバサバサ。
息も乱れて、膝も震えてる。
人生初の愛の告白は、とても情けないものとなった。
「……遅ぇよ…」
司の呟きが胸に刺さる。
背中を向けたままの彼は、もうこのまま振り向いてはくれないだろう。
だけど、これでいい。
私は気持ちを伝える事が出来た。
明日からはあの笑顔を見ることは出来ないけれど。