恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
あたふたする私の背後のドアからいきなり『コンコン』とノックの音がした。
うわ!
驚いて肩がビクッとなる。
「杏里。早く準備して。
ガッコ、遅れる」
慶太の声。
「は、はぁい。ま、待って、すぐ行く」
「うん」
それだけの会話をした後、慶太が部屋の前から去る足音が聞こえた。
………はぁぁ…。
心臓に悪いよ…。
私はヨロヨロと立ち上がると、クローゼットの扉を開けて制服に着替え始めた。
赤ちゃんの頃から、いつもずっと一緒にいた。
兄弟みたいな存在の、幼馴染み。
それ以上でもそれ以下でもない。
……慶太はきっと、私の事をそう思っているだろう。
それも、仕方ない。
当然だ。
私達は近すぎる。
だけど、私は違う。
慶太の事を男として強く意識している。
そう。
――つまり、恋、してる……のかな。