恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
――『もう、一緒に帰らない。
私に学校で話しかけないで』
放課後。
『杏里、帰るよ』
私の鞄を持ち上げた慶太に言う。
『……何で?』
『あんたの親衛隊に脅されたのよ。
近付いちゃいけないんだって』
…全く。
いい迷惑だわ。
いいわよ。お望み通り、幼馴染みなんてやめてやるわよ。
全然、……問題ないんだから…。
八つ当たりなのは分かってた。
慶太は全然悪くない。
だけど、どうしても許せなかった。
どうして私がそんな風に言われなくちゃならないのよ。
…俯く私に慶太が言った一言。
『分かったよ。杏里がそうしたいのなら。
もう学校では話しかけない』
………え?
ガバッと顔を上げる。
彼はニコッと笑って私の鞄を机の上に置くと、そのまま歩き去って行った。
…………。
何なの。
"そんな事を気にするな"とか、"何を言われても関係ない"とか……。
嘘でもそんな事が言えない訳?!
あっさりしすぎでしょ!
慶太にとって私は……その程度の存在なんだね。
――思い知った、出来事だった。