恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
「やっ…、は、離してよ!
何言ってんの?意味わかんない。
あんたなんて……誰が…!
バカじゃないの?!」
混乱して思わずドンッと彼の体を押して突き放した。
「……あ…」
彼の顔を見て、言葉を失う。
……泣き出しそうに…悲しい瞳…。
司は緩く笑いながら私を見つめていた。
「……あの…」
どうして。
どうしたらいいのか分からない。
いつもみたいに茶化して笑いなさいよ。
"本気にするな"と私をバカにしなさいよ。
そんな目……。しないで。
「ごめん。……俺…。
俺なんかじゃ…ダメだよな。
菜緒は……可愛いから」
「え…」
「お、俺…、行くわ。ごめんな」
彼はサッと向きを変えると逃げ出すように教室を出て行こうとした。
「司!」
私の呼び掛けに振り向かない。
「待って!私……」
彼の姿が、吸い込まれるように廊下へと消えていく。