恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
そんな君と、初めて話す事が出来たのはそれから間もない、夏の放課後の出来事だった。
――「あっちぃ……」
ガラッ。
サッカーの練習の合間に教室に忘れたタオルを取りに戻った。
「……あ……」
「……え…?」
彼女は座席に一人座ったままで俺を見た。
「……高崎…さん?」
目が涙で濡れていた。
「宇田川くん……」
驚きの余り、俺は動きを止めて固まった。
「……や、あの…」
海ちゃんは涙を手で慌てて拭うとまた、改めて俺を見た。
「……いや、何でもないの。
何でも……」
「…………」
………びっくりした……。
な……何で………。
「………どうしたの…」
ようやく出た言葉がそれだった。
情けなくて俺が泣きたいくらいだよ。