恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
私の頭をふわふわと撫でながら困っている中野を見ていると、この人を好きになれば良かった、と思えてくる。
彼は泣いている私をそっと椅子に座らせると、自分も静かに隣の席に座った。
「…………」
彼は何も言わない。
何も聞いてはこない。
私の嗚咽だけが二人きりの教室に響いている。
ただ、……安心した。
側にいてくれるだけで思いきり甘えて、泣けた。
――「中野……あんた、どうしてここに来たの。
……部活は?」
しばらくしてから私の気持ちも落ち着いて、彼に訊ねてみる。
「うわ。…今さら。
その質問、二十分前に受け付け終了してますけど…。」
………。
「ごめん…」
「何。そこは謝ってほしい訳じゃねんだけど。
部活が終わって忘れ物取りに来たの。
そしたら……お前が……」
「………」
「ま、いっか、細かい事は。
………駅まで送るよ。
外は暗いから」
「………ありがと」
「おう」