恋の宝石箱《鳴瀬 菜々子のオムニバス・teenslove短編集》
「あのー……。高崎さん。
俺、手を下ろしたいんだけど。
……離してもらっていいかな」
「…………」
……海ちゃん?
どうしたのかな。
まあ、ほんの一瞬だったけど、君と話せてよかった。
夢みたいな一時だった。
最後に……俺の名前だけ知っておいてもらおうかな。
俺は、空。
君と同じ色なんだよ。
「あの」、そう言おうとした時、海ちゃんが顔を上げて俺を見上げた。
至近距離で目が合って驚く。
「うわわっ!!!」
近いッて!!!
「宇田川くん」
俺にしがみついたまま、彼女は俺を見上げている。
「………」
俺は上げていた両手をそっと下ろして、身体の横にぶら下げると、そのまま目を閉じて首を下げ、
――………そっと海ちゃんにキスをした。