東條くんのとある1日
つーんと鼻の奥が痛くなって、その痛みに今日の気持ちが蘇った気がした。
わっと胸の奥から溢れだしたような切なさにぽたぽた頬をつたる。
「うあー。東條くんのばかあー」
ひとりで帰るなんて本当に久し振りで。そんな帰り道を歩きながら手の甲で目をこする。
と。
「呼んだ?」
ぴたっと涙が止まった。さらに言えばずぞーっと目元まで戻っていった気がした。
そっと振り替えれば、そこにはちょっと不機嫌そうな彼がいて。
走ってきたのかぐっと顎につたった汗を拭いながら睨むようにこっちを見ていた。
「き、」
「き?」
「(聞かれてた…!!!)」
泣きながら名前呼んだの、聞かれてた。
ああ。うあ。
ずずっと後ずさる私をいぶかしげに見た彼は「おい、」一言呟く。
1歩。じゃりっとこっちに近づいた東條くんを見て、あとはもう本能だった。
くるっと振り替えって東條くんに背を向ける。
「しっ、失礼しますーー!!」
「え、あ!?はああ!?」
どんな状況だよ!と突っ込んだ彼の声を背中で聞いた気がしたけど、返事もなしに駆け出した。