東條くんのとある1日
「ついでに今日菜乃が教室で泣きそうにしてた理由も当ててあげるよ」
「、っ」
そんなこと、わかるわけないじゃないか。だって東條くんなのに。
耳元で喋るから吐息が当たるほど近い。
息が、詰まる。
なんだか無性に泣きたくなった。
「菜乃、」
毎朝起こしにいく隣の家の幼馴染み。学校と普段はキャラが違って、私の前だけ素を見せる。
学校で一番人気で一番綺麗で、まるで漫画の中から出てきたみたいな男の子。
17年間隣にいたそんな彼が惜しげもなく私たちの間にあった境界線を溶かしてゆく。
甘くて熱い、甘美な響きで。
とろけるような熱情を孕んだ切ないほど意地悪な瞳で。
「俺のことが、好き?」
5時を知らせる“ふるさと”がへっぽこな音をたてて夕日と一緒に町へ降り注いでいた。
そこに、一粒がぽつり。雨なんて降ってないのにコンクリートを濡らした。
PM4:59