金木犀ホリックのレビュー一覧
平均評価星数
5.0
2013/05/08 10:00
投稿者:
和宮 樹
さん
その絶望は神様からの、ご褒美
愛する人に愛されたいという、人のごく自然な感情。 自暴自棄になっているようでいて、それを真っ直ぐに乞い、求めたゆえの結末。 散り乱れる様に人がどうしてか美しさを感じるのは、命の儚さと愛おしさに気付くから。 アスファルトを覆い尽くす程に幾層にも降り積もる金木犀の命のように。 これは、彼女たちが繰り返し重ね合い、すれ違い、そして築き上げていこうとする愛に、神様がほんの少し“イタズラ”という名のご褒美を下さった物語。 扇情的な展開とは裏腹な、はにかむように楚々と微笑む“小さな乙女”の可愛らしさを、是非ともご堪能あれ。
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2013/03/26 08:26
投稿者:
八谷紬
さん
匂いと感情
きんもくせいの匂いがする。 そう小説に書き記したのは山田詠美だった。 それ以来、金木犀の香りは私にとって「恋愛小説の香り」になった。 匂い、というものは常に私たちの周りにあって、プルースト現象ということばがあるように、それによって記憶や感情が扇動されることもしばしば。 季節のうつろいを感じることも、異性を感じることにも密接な匂い。 ひとりで生きていくことを決めた女性が淡々と語る日常は、きっと誰にでもわかってしまう部分があるもの。 しかし突如やってきた非日常は、想像するにとどまる人の方が多い。 それを匂いという誰もがわかるもので繋げて、同時にひとつの恋を落として。 僅かに、けれど確実に動く気持ちを静かな文章で綴る。 どこか儚げで、きれいでいて、そわりとする短編。 金木犀の香る頃、また再び読みたいと思う。
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