【完】Rose.
目が、離せなかった。
原稿など持たずに、真っ直ぐに前を見据えて、しなやかに言葉を紡ぐ姿に圧倒されたのだと、今ならわかる。
それからというもの、どこにいても彼女を探して、見かければ目で追っている自分がいた。
それは俺だけではなく、学内の、男女問わず、彼女の姿に見とれていたように思う。
しなやかで、美しい。
繊細だけど、芯がある。
けれど、どこか陰がある。
そんな彼女に、いつしか心は奪われていた。
けれど、声をかける勇気は無く、情けない自分を叱る日々。
そして彼女にも、恋人は途切れることなくいたように思う。
俺とは違って、躊躇すること無く彼女に向かって行ける、そんな男が彼女の周りには多かった。
ただ一つ救いだったのは、そのほとんどが長くは続いていなかったこと。
…救いだなんて、捻くれているのもいいところだけれど。
去るものは追わず。
そんな彼女にホッとする反面、ピシャリと切り捨てられたら生きては行けないなと、尻込みしていた。
…本当に、情けない。