Only You
　付き合うだけでも私にはとんでもない事件なのに、一緒に暮らす？
　同棲って事？

「嫌ならいいんだけどさ。何ていうか……遠藤さんの寝顔見て生活していたい。ミサのメール読んでたら、朝涙が出る夢を見るって書いてあったよね。僕がそばにいれば……その悲しい夢見なくてすむようになるんじゃないかって思って」

　確かに私は毎日悲しい夢を見る。
　追いかけても届かない大切な人の背中を見ながら体が動かなくて、ひたすら涙が出る。
　そのまま目覚める朝は本当に悲しくて、寂しくて……。
　そういう事まで私はエルにメールしてしまっていた。

　今さら笹嶋さんには隠し事なんかないと言ってもいいかもしれない。

「ちょっと、考えさせてください。今はあなたとエルを合致させるだけでも相当パニックなんです」

　私は情けないながら、嬉しくて仕方ない申し出なのにすぐにOKを出せなかった。

　同棲するとなると、お互いに綺麗に見えていた部分も色あせてしまうんじゃないかって思ってしまうし、できれば私は笹嶋さんには出来る限り綺麗で可愛い女だと思ってもらっていたい。

　彼は私を綺麗だって言ってくれた。
　この人の言葉を信じたい。
　ずっとその言葉を真実にしたまま私の心に生かしておきたい。

「分かった。急がないよ。付き合いもゆっくりでいいよ……遠藤さん……琴美って呼んでいい？」
「はい」
「琴美の一番幸せな付き合いをしよう。僕は君をもっともっと知りたい。できるだけ一緒にいたいし、こうやって君の温もりを背中に感じてるだけで幸せだ……」

　多分私の顔は完熟トマトなみに真っ赤だったはずだ。
　褒められ慣れてないから、どんな返事していいのかもわからない。

　ただ、彼の首に回した腕にぎゅっと力を込めるぐらいしかできなくて……。

　大好きで嬉しいのに、何だか妙に切なくて。
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