Only You
 職場では「おはようございます」と「お疲れ様です」しか交わさなかったのに、メールには溢れんばかりの情熱がつまっていて、私は思わずそのまま画面が見えなくなるほど泣いてしまった。
 くよくよした私の心に、水のきれかけた花を生かすように優しく愛情を注いでくれる。

 私も大好きだよ・・・綾人さん。

 こんな感じで、私は綾人さんとは外で週末にこっそり会っていた。
 社内ではほとんど今まで通りだったし、お互いに結構役者だなあなんて思っていた。
 言葉にしきれない部分はメールでカバー出来ていて、あまり問題はなかったと思う。
 
 でも、いったいどこからそういう情報が漏れるのか不思議で。
 知らない間に、社内で私と彼が付き合ってるのが広まってしまっていた。
 デート現場でも誰かに見られたのかもしれない。

 とたんに女性職員から、何となく嫌がらせされるようになった。
 この事を綾人さんに言うと心配されるから私は黙っていたけど、気配を察知して少し心配するような顔はしていた気がする。
 ほとんど外回りの人だから、私が中でどういう環境なのかまでは分からなかったと思うけど。

「だいたいさ~鏡見てみればって感じだよね!」

 私が化粧室に足を入れる前に聞こえてきた悪口。

「いくら笹嶋さんが変わり者でも、まさか本当にあの遠藤さんと付き合うなんて思わなかった」
「まじで~。遠藤さんってさあ・・・その気ないわってふりして影では結構媚びてるんじゃないの?」
「だよね。絶対そうだよ・・・最悪。あの人見てるだけでムカつく」

 猛烈な私への反感だった。
 私はその中にとても入っていけず、誰も使ってない作業室でこそこそと口紅だけ直した。
 何だかショックが大きすぎて涙も出てこない。
 予想はしていた。
 あの人と付き合うって事は、それに釣り合った人じゃないと反感が出るって。
 私だって綾人さんがエルじゃなければ、告白されても断っていたかもしれないぐらいだ。
 今だってデート中に、手を繋がれるのは慣れないし。
 一緒に並んで歩くのが気が引けるっていうか・・・本当に情け無い状態だ。

 だから、彼も気を使ってくれて自分のアパート行こうかって誘ってくれる。
 私が外だと何もしゃべらなくなるのを気にしているみたいだ。
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