Only You
「メールじゃキスできないでしょ……。琴美、本当に君が好きなんだよ」
「……」
「コンプレックスがあるっていうなら、それが粉々に砕けるまで僕は言い続けるよ。好きだって。職場で嫌な思いしてるなら、別の支社に変えてもらう事もできるけど、僕個人としてはそういう陰険なものに負けて欲しくない
……君は何も悪くないんだから」
「綾人……」

とうとう私は箸を手から落として、彼に抱きついた。
綺麗にアイロンのかかった彼のシャツがしわになるかもしれなかったのに、ぎゅっと背中を抱きかかえて、私はこの感触を失いたくないと心から思って涙が止まらなくなった。

「私にはあなたしかいないのに。ごめんね、心配かけて。あなたとずっと一緒にいたい」

少し曇った空に晴れ間が差すように、私の心にはまた彼の愛情が振りそそいでいた。

戸惑い気味なキスが何度か繰り返された。
それが徐々に狂おしいほどになって……。

気付くと唇だけじゃなくて首筋から鎖骨あたりまでのキスを受けていた。

「あん……ん。駄目だよ、そこからは」
ブラウスのボタンが外されかけていたのを、あわてて止める。
「どうして?琴美の綺麗な体……全部見せてくれないの?」
「ん……まだ恥ずかしい」
多少そういう予感はしていたけど、いざとなると怖くて……どうしても無理。
好きな気持ちと、こういうのをステップアップするのはやっぱり別だ。

「ごめん、また焦った。琴美とこうやってキスして抱きしめてるだけで、本当は十分幸せだよ」

綾人は困り果てている私をそっと抱きしめてくれて、もう何もしないよって優しく髪をなでてくれた。
いつかそういう日も来るんだろうけど、そこまで決心出来るまでもう少しか かりそう。
でも、こうやって彼を傍に感じられてるなら……一緒に暮らすのもいいなって本気で思っていた。

「綾人。もしよければ……ここで一緒に暮らさない?」
「え?」

私からこんな事を言い出したから、当然彼は驚いた。

「メール交換もいいんだけど、あなたも言ったみたいにキスも出来ないし」

 体温を近くで感じられないのが寂しいから。
 一緒に食事できなくても、あなた用の夕飯は毎日用意してあげる。

「本気なの?いいの?」
「うん、綾人がいいなら……そうしたい」

綾人の綺麗な瞳を見つめながら、私は自分から初めて彼の唇にキスをした。
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