Only You
「一緒の生活……どう?」

 同棲して1ヶ月もした頃。
 朝の早い時間、まだ布団の中にいた私を抱きしめて綾人が唐突にそんな事を聞いてきた。
 彼なりに私が最初ガチガチだったのを気にしていて、無理してないか心配してるんだ。
「幸せだよ。毎日……アパートに戻るのが嬉しいし。朝目覚めるのも楽しみになった。会社ではいい事ばかりじゃないけど、綾人といるとそういうのも癒されるし……ありがとう」
「そか……琴美がそう思ってくれてるなら良かった」
 そう言って安心したように微笑む綾人。

 本当に、こんな幸せでいいんだろうか。
 エルそのままだったよ……綾人っていう人は。
 外見の良さなんか全く鼻にかけてないし、営業成績がいい事も別に自分の力じゃないとか言う。
 彼は自分は一人で生きてるんじゃない事を知っていて、もちろんこの世に生まれたのはご両親のおかげだという事まで毎日意識して生きている。

「よく生まれたことを後悔するとか聞くけど……それはもったいないと思うんだ。どれだけの奇跡を積んだってこの世に生を受けてこられたっていうのは、ものすごいラッキーだよ」

「ラッキー……」

「うん。確かにその環境とか時代で悲しい人生を背負う場合もあると思うけど、基本的に僕は命は全部平等だと思ってる。だからさ、僕は明日死んでもいいぐらいの気持ちで毎日感謝100%で生きてる……」

 26歳の若者が言うには、ちょっと達観してるなあっていうセリフだ。
 彼自身にも悩みはあるだろうし、毎日仕事でものすごく苦しい事が多いはずだ。
 でも、そういう苦しみも「生きてるからこそ」っていう意識で受け止めてるのかもしれないな。

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