Only You
「え、長坂?僕との交際を分かってても?」

 綾人は彼にしては珍しく驚きの声をあげた。

「うん……。迷惑なら聞き流してって言われたから、そうする」
「だよな。うん、それしかないよ……そうしてくれる?」

 やっぱりいつもの冷静な彼じゃなくて、やや焦っているのが分かった。

 天敵「ライト」だって言ってたから、長坂さんの事は相当意識してるみたいだ。
 私が天海さんを意識するのよりさらに強い衝撃を受けているように見えた。
 仕事の面でも、最近長坂さんの方が大口を仕入れてくる事が多くて、そういう意味でも負けたくないっていう気持ちが強く働いてるのかもしれない。

「綾人。変な心配はしなくていいからね?」

 私だって天海さんの事我慢してるんだから、綾人だってこれぐらいはスルーしてくれるよね。
 そう思ったけど、彼は何だか本当に心配していて、無言できつく抱きしめてきた。
「綾人。苦しい」
「駄目、琴美は誰にも渡さない」
「……」
 余裕のあるエルが冷静さを失う相手はただ一人、ライトという天才青年だった。
 お互いに同格の力を持ってる二人。
 男性っていうのはこういう場合、絶対頂点に立ちたがるものなんだろうか。

 こんな感じで、私達はお互いに気になる異性ライバルを意識しながらの生活を送る事になった。


 綾人と天海さんコンビは早速頭角を現し、会社が満足するような成績を打ち出し始めていた。
 ソフトな綾人と、天海さんの押しの強さがいい具合にかみ合ってるみたいだ。
 そんな二人の成績をよそに、長坂さんは自分の相棒を相手に淡々と独自のラインを当たっていて、何となく社内での軽いバトルみたいになっていた。
 水面下で心理作戦みたいに読みあってるのが分かって、ちょっと見てる方としては味方同士なのにそこまで……という気もしないでもなかった。
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