Only You
 そこで、私は腕組みしている香澄ちゃんに睨まれた。
 だいたいの理由は分かったけど、内容はちょっと意外だった。

「いつまで笹嶋さんと付き合う気なんですか?天海さんとまた付き合ってくれた方がずっと納得」

 かなり我慢出来ないっていう感じでそう言われた。
 何で天海さんが、ここに出てくるわけ?
 私はあまり意味が飲み込めなくて黙っていた。

「ねえ、笹嶋さん……あなたの何を好きだって言ってるんですか?」

 あきれ果てた顔の香澄ちゃん。
 何って言われても……そんなの彼に聞いてよ。
 私はこうとしか答えられない。
 そして思った。
 この人は、綾人の内側の事なんか何も知らないんだ。
 あの人の外側に見える綺麗さだけに執着してるんだ……って。

「天海さんと笹嶋さんって転勤がきっかけで自然消滅だったみたいだし、再燃しないとも限らないですよ。あまり図に乗らないほうがいいと思います」
「香澄ちゃん」

 若すぎるのもあるんだろうけど、あまりの失礼さに私もさすがに頭にきた。

「香澄ちゃんにどう思われても構わない。ただ、彼の心を動かす事が出来るのは私じゃないよ。私は彼を応援してるだけ……好きな人をただ応援してるだけなの」

 私は静かにそれだけ言って、唖然としている香澄ちゃんを置いて屋上を降りた。
 天海さんとの関係が気にならないと言ったら嘘になるけど、でも香澄ちゃんの言葉で動揺したりはしたくなかった。
 本当に動揺するとしたら、綾人本人が天海さんへの残った好意を語った時だと思う。

 どうして自分の心がこんなに静かなのか不思議だった。
 ただ、エルと綾人という存在が、徐々に私を変えている事は確かだった。

 エル……私、分かったよ。

 仕事が出来るとか・・・外見がいいとか……そういうのが大切な場面もあるけど、人生で一番必要なのはハートの大きさなんだって。

 どんな状態の自分も愛せる心が一番大事なんだって。
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