Only You
 まだ長坂さんの事を気にしてるんだろうか。
 確かにあの女性には無関心だった人が、何かと私には話しかけてくれる事は多い。
 だからといって何か特別な事を話してる訳でも無いんだけど。

「信じてって言ったのは綾人だよ。私だってあなたを好きだよって言うしか方法が思いつかない。どうすれば安心する?どうすれば私の心があなたで占有されてるって理解してもらえる?」

 そう言ったら、綾人は軽く笑った。

「何で笑うの!?」
「いや、ごめん。違うんだ、冷静な人間なつもりだったけど……琴美のことになると馬鹿みたいに幼くなる自分にあきれてるだけ」

 むくりと起き上がって、驚いてる私の上に覆いかぶさるように彼は抱きしめてきた。
 綾人の香り。
 洗濯して洗剤の香りもするんだけど……少しだけ彼の汗が混ざった独特な香り。
 私はこの香りが大好きで。
 だから、彼の着たものを洗濯するのがもったいないな……なんて思う日もあるんだ。
 洗剤で綾人の香りを消しちゃうのがもったいないの。
 ちょっと変かな。

「琴美の香りがする。甘い……香り」
 彼も同じ事を思ってたのか分からないけど、私のパジャマに顔をあてて心地よさそうにした。
「私香水とか全く分からないから、多分天然の香りだよ。私も綾人の香り大好き」
 同じように彼のTャツに顔を当てて目を閉じる。
 言いようのない幸福感。

 春でもないのに、体が浮いてしまいそうだ……。
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