Only You
 こんなに弱った僕の気持ちを知ったら、琴美はどう思うだろうか。

 がっかりするかな……。

 しょぼくれて暮らしていた平日が終わって、とうとう待っていた週末が来た。
 琴美は金曜の最終電車に乗って東京に戻って来てくれた。
 時間はきちんと聞いてなかったけど、部屋で待ってるなんてとても無理だったから、僕は最寄駅前をウロウロしていた。

「綾人?」

 まさか駅まで出てるとは思ってなかったみたいで、改札を出て駐輪場まで歩いて来た琴美が、びっくりした顔で立っていた。

「琴美」

 この日は夕方から小雨が降っていたのに、傘を持たずに出た僕は、すっかり濡れていた。
 そんなのも忘れて、僕は琴美を抱きしめた。

「やだ、濡れてる。ちゃんと傘ささないで……駄目だよ。小雨って意外と濡れちゃうんだよ?」

 まるで昨日も会ったみたいな自然さで、琴美は僕の体についた雨粒をハンカチで必死に拭っていた。
 僕はその手を止めて、暗がりの駐輪場で琴美にキスをした。
< 58 / 103 >

この作品をシェア

pagetop