Only You
 この人は、仕事に関しては感情をほとんど入れない。
 買って欲しい相手に媚びる事もしないし、返品や不良品が出た時も儀礼的な言葉しか発しない。
 私はその彼のクールな部分をフォローする為に、色々謝ったり、商品の紹介なんかをした。
 おかげで、最初は彼に対して不機嫌な応対を見せていた店の人にも少しは笑顔を見せてもらえるようになっていた。

(もう少し笑顔があってもいいんじゃないかな)

 何で自分ばっかり愛想笑いしてなきゃいけないのか、ちょっと不満だった。
 そういう私の不満も全部お見通しっていう感じで、長坂さんはランチを時々おごってくれる。

「遠藤さんの笑顔にフォローされてるのは分かってるよ。俺はどうにも好きでもない相手に笑うっていうのが苦手でさ、仙台まで引っ張ってきてしまったけど……来てくれて嬉しかったよ」

 いつになく優しい声で、彼はそう言って笑った。
 嫌いな人には笑えないって言われたばかりだったから、やっぱり長坂さんは私に特別な思いがあるのか……と深読みしてしまう。

 長坂さんはタバコを半分まで吸ったところで、ぎゅっと携帯灰皿で火を消して「さあ次行こうか」と言って車のスピードを上げた。

 グンッと体がシートに押さえつけられるような感覚の後、エンジンがうなりを上げてスピードが上がるのが分かった。
 流れ行く景色。
 このままどこまでも行けそうな感じだけど……結局次の目的地まではほんの数分だ。
 どうせなら東京まで私の体を戻して欲しい。

 最初の威勢のよさは消えて、私の心はちょっと弱くなっている。
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