佳人な先生
墓地について

専用駐車場に

車を止めた。

車から降りようとした時

月冴さんが雨が打ちつけられる

フロントガラスを

見つめたまま、私に言った。


「先に僕の話しを
 聞いてくれませんか。」


「・・・はい。」


私は降りようとしていた

体勢を戻し、前を向いて

座りなおした。


「昨日・・・
 安里君が僕を訪ねて
 きてくれました。」



・・・匡。



「彼の話しを聞いて
 僕なりに考えました。
 
 今まで
 いろんなことを
 考えすぎて・・・
 自分がどうしたいのか
 見失っていました。
 
 兄が君へ手紙を書いた後
 兄の離婚が成立していました。
 もし兄が生きていれば
 君は兄を選ぶだろう
 僕は選ばれることのない
 人間だ・・・とか。

 僕には兄に『借り』が
 あって、そのために
 君を利用しようと
 しているんじゃないか・・とか。

 考えれば考えるほど
 自分が嫌な人間になって
 いきました。

 それに・・・正直
 僕を1番愛して欲しいと
 思う欲もあります。
 けど、僕には兄も
 大切な人なんです・・・。
 
 どれだけ考えても
 君に兄を忘れて欲しいとは
 思えなかった・・・。

 だから・・・
 もし、僕にまだ望みがあるなら
 
 兄の代わりでもいい

 兄の次でかまわない・・・
 
 あ・・・

 先に『借り』と言ったことを
 話さないといけませんね・・・。

 実は・・」



「聞きたくありません。」



「え?」



「行きましょう。」



私はそう言って

車から降りて傘をさし

瑞城先生のお墓に向かった。
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