Let's study!!
17歳 Winter
どうしてこんなときに気が付いてしまったのだろう?
…どうして、こんな状況になってるんだろう、私たちの平和なリビング。
さっきまで、私は、いつも通り、幼馴染とテレビを見ながら、せんべいをばりばり食べていたはずだ。おばあちゃんが気に入って、近頃はストックが切れることのない、ごまがいっぱい入ったやつ。
口の中は、まだごまの香りでいっぱいなのに。
「付き合ってよ、菜津希ちゃん」
私の目の前では、妹を挟んで、ふたりの男子が立っている。見覚えのない片方の彼は、甘い台詞を吐いた直後にもかかわらず、尖った視線で、私たち姉妹の幼馴染である彼を、突き刺している。
まあ、呼びかけられた妹が、彼の袖を掴んでいるからだろう。
「邪魔しないで下さいよ」
そう言われて、目を丸くしている方が、幼馴染の可美村瑞樹(かみむらみずき)。女みたいな名前だけど、一応男だ。高校2年生で、私と同じ歳。
「いや、むしろあんたの方が邪魔なんだけど」
口が利けない状態の瑞樹の代わりに、ばっさりとそう言い捨てているのが、彼らの間にすっくと立って、天使のような微笑みを浮かべている我が妹、早坂菜津希(はやさかなつき)。
「え!?」
素直に衝撃を受けているのが、少年A。初対面だし、名前も知らないけれど、制服と態度からして、妹の同級生だろう。だとしたら、中学3年生。
「あたし、彼と付き合ってんの」
あっさりとそう言い捨てる妹の言葉には一瞬の迷いもなかったので、私は「あ、そうなんだ」と即座に納得していた。
「……の、割には、先輩、めちゃくちゃびっくりしてんじゃん」
少年Aの指摘がなければ。
部外者の私も、渦中の妹も、瑞樹の顔を見たら、噴き出しそうになった。「鳩が豆鉄砲をくらったような顔」とは、まさにこの顔、と思える表情だったから。
「いや、だってさ」
そんなわたしたちの様子に気がついたらしく、ようやく言葉を発した瑞樹だったけれど。
「何を今更びっくりしてるんだろうね?あ、瑞樹、恥ずかしいんだ?」
それを遮って、妹がくすりと笑ったのが、妙に妖艶に見え、私は息を呑んだ。
同性なのに。しかも、2歳年下なのに。
菜津希は、瑞樹の首に両腕を絡めたかと思ったら、ちゅっというかわいい音とともに、彼の唇にしっかり口づけしたのだった。
身長差といい、顔立ちといい、ふたりの姿は絵のように見えた。
「ね、瑞樹。あたしと瑞樹は付き合ってるんだよね?」
菜津希の大きくてぱっちりした二重の目で見上げられて、瑞樹が真っ赤になった顔で、わずかに頷いた。
瑞樹の態度からして、それまでは菜津希を特に意識はしてなかったと思うけれど、この瞬間、その道、つまり恋愛のプロである妹の手管に、瑞樹はあっさり落ちたんだと思う。
…なんだろう、この胸がつかえる感じ。石でも飲み込んだみたいだ。
かわいい妹と、大切な幼馴染。自分の世界に閉じこもりがちな私にとって、貴重な存在の二人が、恋人同士になったっていうのに。
いや、つかえるっていうよりも、ずっきんずっきんと、痛みすら訴えはじめた胸の奥。
そこを、仕方なく覗きこんでみたら。
私は彼のことが好きだったんだってことに、初めて気がついた。
…なんともまあ、悲惨な恋のスタートだ。
さっきまで、私は、いつも通り、幼馴染とテレビを見ながら、せんべいをばりばり食べていたはずだ。おばあちゃんが気に入って、近頃はストックが切れることのない、ごまがいっぱい入ったやつ。
口の中は、まだごまの香りでいっぱいなのに。
「付き合ってよ、菜津希ちゃん」
私の目の前では、妹を挟んで、ふたりの男子が立っている。見覚えのない片方の彼は、甘い台詞を吐いた直後にもかかわらず、尖った視線で、私たち姉妹の幼馴染である彼を、突き刺している。
まあ、呼びかけられた妹が、彼の袖を掴んでいるからだろう。
「邪魔しないで下さいよ」
そう言われて、目を丸くしている方が、幼馴染の可美村瑞樹(かみむらみずき)。女みたいな名前だけど、一応男だ。高校2年生で、私と同じ歳。
「いや、むしろあんたの方が邪魔なんだけど」
口が利けない状態の瑞樹の代わりに、ばっさりとそう言い捨てているのが、彼らの間にすっくと立って、天使のような微笑みを浮かべている我が妹、早坂菜津希(はやさかなつき)。
「え!?」
素直に衝撃を受けているのが、少年A。初対面だし、名前も知らないけれど、制服と態度からして、妹の同級生だろう。だとしたら、中学3年生。
「あたし、彼と付き合ってんの」
あっさりとそう言い捨てる妹の言葉には一瞬の迷いもなかったので、私は「あ、そうなんだ」と即座に納得していた。
「……の、割には、先輩、めちゃくちゃびっくりしてんじゃん」
少年Aの指摘がなければ。
部外者の私も、渦中の妹も、瑞樹の顔を見たら、噴き出しそうになった。「鳩が豆鉄砲をくらったような顔」とは、まさにこの顔、と思える表情だったから。
「いや、だってさ」
そんなわたしたちの様子に気がついたらしく、ようやく言葉を発した瑞樹だったけれど。
「何を今更びっくりしてるんだろうね?あ、瑞樹、恥ずかしいんだ?」
それを遮って、妹がくすりと笑ったのが、妙に妖艶に見え、私は息を呑んだ。
同性なのに。しかも、2歳年下なのに。
菜津希は、瑞樹の首に両腕を絡めたかと思ったら、ちゅっというかわいい音とともに、彼の唇にしっかり口づけしたのだった。
身長差といい、顔立ちといい、ふたりの姿は絵のように見えた。
「ね、瑞樹。あたしと瑞樹は付き合ってるんだよね?」
菜津希の大きくてぱっちりした二重の目で見上げられて、瑞樹が真っ赤になった顔で、わずかに頷いた。
瑞樹の態度からして、それまでは菜津希を特に意識はしてなかったと思うけれど、この瞬間、その道、つまり恋愛のプロである妹の手管に、瑞樹はあっさり落ちたんだと思う。
…なんだろう、この胸がつかえる感じ。石でも飲み込んだみたいだ。
かわいい妹と、大切な幼馴染。自分の世界に閉じこもりがちな私にとって、貴重な存在の二人が、恋人同士になったっていうのに。
いや、つかえるっていうよりも、ずっきんずっきんと、痛みすら訴えはじめた胸の奥。
そこを、仕方なく覗きこんでみたら。
私は彼のことが好きだったんだってことに、初めて気がついた。
…なんともまあ、悲惨な恋のスタートだ。
< 1 / 30 >