Let's study!!
8歳
Memory
おばあちゃんの手は魔法の手だ。
由澄季はよくそう思った。こうやって、早坂ハルの皺のある両手が、野菜を刻み、鍋をかき回す様子を見守りながら。
あの堅くて青臭かった人参が、おばあちゃんの手にかかるととろとろにとろける甘い食べ物になる。由澄季はそれが不思議でならない。
「手伝うかい?」
ハルがそう問いかけるまでは、由澄季はこうして夢中で祖母の手元を見ている。
「うん!」
師匠に魔法を伝授してもらう愛弟子のように、由澄季は真剣な目をキラキラさせて、そう答えるのだ。
近頃、包丁を一人で持たせてもらえるようになったから、いっそう料理が楽しくてならないらしい。その一方で、ハルははらはらしながら孫の包丁さばきを見守っているのだけれど。
「ごはん、おいしいかい?」
完成した食事を前に、ハルがそう問うと、子どもたちはそろって「うん!」と元気に答えた。
この歳でもう一度、子育てをすることになろうとは思いもよらなかったけれど、ハルはこの生活を楽しんでいた。
由澄季と菜津希の姉妹、そして瑞樹、3人は今でも時々3姉妹に間違えられることがある。
由澄季が動きやすい男の子のような服装を好むせいで、菜津希以外は男の子か女の子かも分かりにくいのだけれど、ハルはそんな3人を連れて買い物や散歩に出かけるのも楽しかった。
「おばあちゃんのごはんって、なんでこんなにおいしいんだろう」
もぐもぐと口を動かしながらも、由澄季が不思議そうに小鉢の中の煮物を覗き込んでいる。
「おいしくなるように作ってるんだけどね。それは順番に教えてあげるよ」
食べるのが専門の菜津希と瑞樹とは違って、いつもハルの調理を見守っている由澄季だから、きっと同じ味を再現できるようになるだろうと、ハルは考えている。
「だけどね、同じように作っても、食べる人間が元気じゃないといけないよ」
「え?どういうこと?」
これには菜津希と瑞樹も顔をあげて、きょとんとしている。
「心や体が疲れ過ぎていると、食べ物も上手く味わえなくなる。おいしく感じられなくなって、食べることも辛くなって、いっそう元気がなくなるんだ」
ええ~、と子どもたちはそろって声を上げた。
今はまだ、そんなことを知る必要はないし、知らなくてよかったとハルは微笑んだ。
「今日も、観察してたミミズ取り上げられたけど、まだ私元気みたいだな。おばあちゃんのごはん、こんなにおいしいし」
「…」
学校では相変わらずの境遇の由澄季に、ハルが少し心配そうな表情を浮かべたことに気がついて、瑞樹が「後で新しいやつ探したから大丈夫」と続けた。
「うん。まあ、だからね、ごはんをおいしく食べられるなら、なんとかなるんだよ」
気を取り直してハルが笑うと、「おばあちゃんそればっか」と言いながらも、菜津希は再び忙しく箸を動かし始める。
「俺、いつでもばーちゃんのごはん、おいしいよ」
にこにこしている瑞樹に、「それは瑞樹がいつでも元気な証拠」と言って頭を撫でてやる。
「じゃあ私、おばあちゃんみたいにおいしいごはんが作れるようになりたい。そうしたら、家族みんなが元気かどうかよくわかるもん」
決意したかのように、強く言い切る由澄季。
三者三様の反応を、それぞれ愛しいと感じながら、ハルは自分の体力の続く限りは子どもたちに愛情を込めた食事を作ってやりたいものだと思った。
そんなハルの手料理を食べて育ったから、子どもたちにとって、食事は栄養を摂るだけのものではなく、もっと大切なものとなった。
それは、心身の健康のバロメーターであり、愛情の確認でもあった。
由澄季はよくそう思った。こうやって、早坂ハルの皺のある両手が、野菜を刻み、鍋をかき回す様子を見守りながら。
あの堅くて青臭かった人参が、おばあちゃんの手にかかるととろとろにとろける甘い食べ物になる。由澄季はそれが不思議でならない。
「手伝うかい?」
ハルがそう問いかけるまでは、由澄季はこうして夢中で祖母の手元を見ている。
「うん!」
師匠に魔法を伝授してもらう愛弟子のように、由澄季は真剣な目をキラキラさせて、そう答えるのだ。
近頃、包丁を一人で持たせてもらえるようになったから、いっそう料理が楽しくてならないらしい。その一方で、ハルははらはらしながら孫の包丁さばきを見守っているのだけれど。
「ごはん、おいしいかい?」
完成した食事を前に、ハルがそう問うと、子どもたちはそろって「うん!」と元気に答えた。
この歳でもう一度、子育てをすることになろうとは思いもよらなかったけれど、ハルはこの生活を楽しんでいた。
由澄季と菜津希の姉妹、そして瑞樹、3人は今でも時々3姉妹に間違えられることがある。
由澄季が動きやすい男の子のような服装を好むせいで、菜津希以外は男の子か女の子かも分かりにくいのだけれど、ハルはそんな3人を連れて買い物や散歩に出かけるのも楽しかった。
「おばあちゃんのごはんって、なんでこんなにおいしいんだろう」
もぐもぐと口を動かしながらも、由澄季が不思議そうに小鉢の中の煮物を覗き込んでいる。
「おいしくなるように作ってるんだけどね。それは順番に教えてあげるよ」
食べるのが専門の菜津希と瑞樹とは違って、いつもハルの調理を見守っている由澄季だから、きっと同じ味を再現できるようになるだろうと、ハルは考えている。
「だけどね、同じように作っても、食べる人間が元気じゃないといけないよ」
「え?どういうこと?」
これには菜津希と瑞樹も顔をあげて、きょとんとしている。
「心や体が疲れ過ぎていると、食べ物も上手く味わえなくなる。おいしく感じられなくなって、食べることも辛くなって、いっそう元気がなくなるんだ」
ええ~、と子どもたちはそろって声を上げた。
今はまだ、そんなことを知る必要はないし、知らなくてよかったとハルは微笑んだ。
「今日も、観察してたミミズ取り上げられたけど、まだ私元気みたいだな。おばあちゃんのごはん、こんなにおいしいし」
「…」
学校では相変わらずの境遇の由澄季に、ハルが少し心配そうな表情を浮かべたことに気がついて、瑞樹が「後で新しいやつ探したから大丈夫」と続けた。
「うん。まあ、だからね、ごはんをおいしく食べられるなら、なんとかなるんだよ」
気を取り直してハルが笑うと、「おばあちゃんそればっか」と言いながらも、菜津希は再び忙しく箸を動かし始める。
「俺、いつでもばーちゃんのごはん、おいしいよ」
にこにこしている瑞樹に、「それは瑞樹がいつでも元気な証拠」と言って頭を撫でてやる。
「じゃあ私、おばあちゃんみたいにおいしいごはんが作れるようになりたい。そうしたら、家族みんなが元気かどうかよくわかるもん」
決意したかのように、強く言い切る由澄季。
三者三様の反応を、それぞれ愛しいと感じながら、ハルは自分の体力の続く限りは子どもたちに愛情を込めた食事を作ってやりたいものだと思った。
そんなハルの手料理を食べて育ったから、子どもたちにとって、食事は栄養を摂るだけのものではなく、もっと大切なものとなった。
それは、心身の健康のバロメーターであり、愛情の確認でもあった。