初恋

6

読み終わって席に着くと、先生が

「柴田君ばっか読むと、藤富さん教科書見れないわね」

と言って笑っていた。


もっと、はやく、きづけ!


ぼくは教科書を元の場所に戻す。
藤富千夏が、ピクンと反応する。

うつむいてるけど、ちょっと耳が赤くなっているような。

ぼくは再び教科書に目を落とす。

藤富千夏の教科書には隅っこに人気マンガのキャラクターが描かれていた。

ぼくはノートの端を破って、そっと藤富千夏の目の前に置いた。

藤富千夏が一瞬怪訝そうな顔をするが、そっとその紙を手にとって開く。

『絵うまいんだな。今度俺の教科書にも描いて』


やっぱりごめんって書けなかった。

でも、藤富千夏がそれを見て笑った。



また、


ドキンとした。


なんか、



さっきとは違う・・・かも。

藤富千夏が返事を書いて返してきた。

きれいにたたまれたノートの切れ端。
丸い文字で、『ありがとう』と書いてあった。


次の日学校に着くと、藤富千夏が「おはよう」とぼくに言った。

一瞬ドキリとしたけど、

「おはよ」

と返した。

今度はどもらず言えた。
相変わらず、ぶっきらぼうな声だったけど。


それから毎朝「おはよう」のあいさつを交わすようになった。
となりの席に座っているけど、ぼくたちの交わす言葉はそれだけだった。
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