不遜な蜜月

ココアは濃すぎて、自分の顔が映らない。


「私、ネイルサロンを経営してるの。名刺は・・・・・・あ、あった。よかったら、どうぞ」


美紗が名刺を差し出すと、真緒は躊躇いつつも受け取った。


(綺麗な人・・・・・・)


気持ちが落ち込んできて、真緒は誤魔化すようにココアを喉に送り込む。


「あなたも災難ね」

「え?」


カップを口から離し、真緒は美紗と目が合う。


「だって、妊娠したから結婚する羽目になったんでしょ? 災難じゃない」

「・・・・・・社長が、言ったんですか?」

「えぇ。妊娠の話は、理人から聞いてるわ。だから、結婚するのよね?」


ココアは、少し甘すぎるかもしれない。

そんな、どうでもいいことを考えていないと、嫌なことを考えてしまいそうで―――。


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