不遜な蜜月
『・・・・・・明日の便で帰る。何か変わったこととか、なかったか?』
少し不満そうな理人の声に、玲奈は笑う。
「特には何も。社長がいなくて、みんな寂しいみたいだけど」
『何もないならいい。じゃあ、切るぞ』
「あ、待って!」
慌てて玲奈は呼び止める。
「どうして教えてくれなかったの? 香坂さんとのこと」
『―――誰から聞いた?』
「それは・・・・・・おじいちゃんからよ」
平静を保ちつつ、嘘を簡単に口にする。
ただ、理人は用意に嘘を見破った。
『お祖父さんが話すはずがない。誰から聞いた?』
祖父は、話すべきでないことは話さない人だ。
それがたとえ、身内であっても。
「・・・・・・梶谷 美紗から」
『あいつと会ったのか?』
「会社の近くに、新しいネイルサロンがオープンして、同僚の子が誘うから」