不遜な蜜月
俺の子か、は失言だった。
紛れも無く、彼女が身篭ったのは自分の子だ。
(金でも請求されれば、余程楽なのに)
前髪を苛立たしくかき上げ、扉に目をやる。
あんな顔をさせたかったわけじゃない。
泣いて怒鳴って罵ってくれれば―――あんな顔を見たら、罪悪感に苛まれる。
「・・・・・・クソッ」
苛立ちを隠さず、理人はソファーから立ち上がり、社長室の扉を乱暴に開けた。
エレベーターのボタンを、急いた様子で何度も押す。
早く、早くっ。
泣いてしまいそうで、ひとりになりたかった。
(私の子だもの・・・・・・私の子・・・・・・)
あぁ、嫌だ―――涙が出そう。
「香坂!」
「!」
廊下の向こう、早足で近づいて来るのは理人だ。
エレベーターを見ても、まだ到着しそうにない。
「・・・・・・っ」
これ以上、視界にも入れたくない。
真緒はエレベーターを諦め、階段へと向かった。