不遜な蜜月
沈黙が重いエレベーター内、真緒はずっと、目を伏せていた。
すぐ隣に感じる、他人の気配。
ほのかに香るのは、多分・・・・・・理人の香水だろう。
「悪かった」
「・・・・・・社長?」
急な謝罪に、伏せていた目を上げる。
「産む産まないは別にしても、失言だった。・・・・・・俺の子だ」
「・・・・・・いいえ。社長の子じゃありません」
先程よりも、柔らかな真緒の声。
それでも、理人を突き放すことに躊躇いはない。
「もう決めたんです」
「ひとりで産むのか?」
「はい。社長に迷惑はかけません」
「さっきのことは、本当に悪かったと思ってる。だから―――」
真緒は静かに首を振る。
次いで、エレベーターの扉がゆっくりと開いた。
理人の言う通り、あれは失言だったと真緒も思う。
でも、怒りとか、そういう感情は沸き上がって来なかった。
ただ、言いようもなく、胸が苦しくなっただけ。