不遜な蜜月
「仕事がありますので、失礼します」
真緒は頭を下げ、早足でエレベーターを出た。
―――泣きたくなる。
産むという選択を後悔してるわけじゃない。
僅かばかりでも、期待した自分が情けなくて、泣いてしまいそうなんだ。
結婚だとか産んでほしいとか、そんな言葉は望まない。
ただ、自分の子に少しだけでも“愛”を見せてくれたら―――。
(わかってるわ。妊娠して、戸惑ってるのは私だけじゃない)
理人だって、当事者だ。
社長で男性だし、真緒とは違う悩みや問題もあるだろう。
それでも今は、理人の心を気遣う余裕はない。
「あ・・・・・・!」
「っと、大丈夫?」
角を曲がったところで、誰かにぶつかってしまった。
幸い倒れはしなかったが、相手が持っていた紙の束が落ちてしまう。
「すみませんっ。拾います」
真緒は慌てて、床に落ちた紙を拾う。
「あれ? 君、この間残業してた子だよね?」