不遜な蜜月
「え? あ・・・・・・一ノ瀬、さん?」
優しい笑顔に見覚えがある。
「当たり。自己紹介したっけ?」
首を傾げる一ノ瀬を見て、真緒は小さく笑う。
「一ノ瀬 誠。あ、ありがとう」
拾った紙を受け取り、誠が笑いかける。
「すみませんでした。あの・・・・・・失礼します」
真緒は頭を下げて、その場から立ち去る。
「・・・・・・?」
逃げるように立ち去る真緒を気にしつつも、誠は用事を思い出して歩き出した。
エレベーターは、理人を乗せて社長室のあるフロアへと向かう。
後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。
だが、あの場で何を言うのが正解だったのか、考えてみてもわからない。
真緒は自分を拒絶し、ひとりで産むという決断を下した。
「・・・・・・はぁ」
漏れるのはため息ばかりで、理人は苛立たしく顔を歪ませる。