不遜な蜜月
(本当に、ひとりで産むつもりなのか?)
実感はないが、お腹にいる子の父親は自分だ。
産むと言われると、無視できない。
だが、下ろせと言って、また彼女のあんな傷ついたような顔は見たくはない。
だからといって、結婚なんて―――。
考えても意味はないが、あの夜に戻れたら、と思ってしまう。
あの夜に戻れたなら、やり直すのに。
(いや・・・・・・やり直しても、同じことをしそうだな、俺は)
不思議なことに、あの夜、彼女を抱いたことを後悔してはいない。
失態だとは思うが。
後悔に苛まれているのは、傷つけてしまった己の失言だ。
「癒してくれる女性、か・・・・・・」
あの夜、自分は癒されたのだろうか?
エレベーターが開き、理人は思考を中断した。
仕事に私情を持ち込むのは、未熟者の証拠だ。
気持ちを入れ替えて、理人は一歩、踏み出した。