不遜な蜜月
「帰るわよ、遼太郎」
眠たい遼太郎は、目を擦りながらおぼろげに頷く。
「車で来たの?」
「ううん、電車」
遼太郎を抱え上げ、菜緒は帰り支度を始める。
「お父さん、送ってあげて。遼くん、眠たいのに電車は可哀相だわ」
「そうだな。真緒、お前も送ってあげるから、来なさい」
父親は車のキーを取りに、リビングを出ていく。
「真緒。ひとりで抱え込まないのよ」
母親が、優しく肩を叩く。
不意に、泣きたくなる。
自分がひとりじゃない、と安心させてくれるから。
「行くぞ〜」
「はぁい。お母さん、また来るね」
先に行く菜緒に、遅れて真緒も続く。
父親がいなくたって、大丈夫。
不安や心配は尽きないけど、意地でも理人には頼らない。
自分には、ちゃんと味方がいる。
それだけで、心が軽くなった。