不遜な蜜月

「帰るわよ、遼太郎」


眠たい遼太郎は、目を擦りながらおぼろげに頷く。


「車で来たの?」

「ううん、電車」


遼太郎を抱え上げ、菜緒は帰り支度を始める。


「お父さん、送ってあげて。遼くん、眠たいのに電車は可哀相だわ」

「そうだな。真緒、お前も送ってあげるから、来なさい」


父親は車のキーを取りに、リビングを出ていく。


「真緒。ひとりで抱え込まないのよ」


母親が、優しく肩を叩く。

不意に、泣きたくなる。

自分がひとりじゃない、と安心させてくれるから。


「行くぞ〜」

「はぁい。お母さん、また来るね」


先に行く菜緒に、遅れて真緒も続く。


父親がいなくたって、大丈夫。

不安や心配は尽きないけど、意地でも理人には頼らない。

自分には、ちゃんと味方がいる。


それだけで、心が軽くなった。


< 63 / 355 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop