不遜な蜜月
(最初に結婚しないと言った手前、難しいよな・・・・・・)
くだらないプライドだと言われても、彼女に結婚を申し込むのは情けなさすぎる。
それに、真緒が素直に了承するとも思えない。
「あぁ・・・・・・面倒だ」
もっとワインを飲めばよかった。
酔っていたら、少しは現実逃避できたのに。
だが、面倒事というのは望もうとも望まずとも訪れるものだ。
―――数日後。
甘い匂いがする。
匂いの元は隣―――彩子のデスクからだ。
「食べる? 美味しいよ、栗ドラ焼き」
「あ、ありがとう」
焼きたてらしいドラ焼きを、そのまま受け取る。
「秋限定なのよ〜」
そう言って、彩子は2つ目を手に取る。
「今日、会長が来るんだって」
「会長が?」
会社に顔を出さない会長は、ほとんどの業務を社長である孫の理人に任せている。
本人も多少の仕事に関わってはいるが、会社へ足を運ぶことは少ない。