不遜な蜜月
そう、わかってる。
理人の提案をのむことが楽な道で、間違いのない選択だと。
でも、胸が苦しい―――。
「結婚はしない」
「香坂・・・・・・」
「あなたと結婚なんてしない!」
涙が出そうになる。
真緒は理人を押し退けて、個室を出ていく。
「香坂!」
そのあとを、理人が追いかけた。
夜の風は冷たくて、けれど心地好い。
真緒は早足で歩いた。
駅まで行って、自分の部屋へ帰って、お風呂に入って。
そんな、どうでもいいことを考えていた。
「香坂!」
呼ばれても、振り返ったりしない。
早く帰ろう。
そのことだけを、考える。
「香坂、待て!」
「!」
掴まれた腕が痛い。
顔だけ背けて、耳に届くのは理人の早い息遣い。
走って追いかけてきたのだろう。
「離してください」
「・・・・・・送る」