不遜な蜜月
断ろうと思ったのに、理人は手早く携帯で連絡してしまう。
「・・・・・・寒くないか?」
「平気です」
腕をさすりながら、真緒は淡々と答える。
「俺は、君を傷つけてばかりだな」
そんな顔をさせたいわけじゃない。
でも、君を笑わせる言葉なんて、言えるはずもない。
「父親が必要なのは、わかってます。ひとりで産むことが大変なのも」
「なら―――」
「望まない結婚は、苦しいだけです」
浮かべた笑顔は、寂しい。
「苦しいのは、君が?」
「・・・・・・社長も、です」
冷たい風が吹いて、真緒の髪を揺らした。
少し寒い。
「着ていろ」
「・・・・・・ありがとうございます」
理人の上着からは、香水の匂いがした。
あの夜と、同じ匂い。
(この匂いは、今も好き・・・・・・)
真緒は苦笑しながら、理人の上着を握りしめた。