哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
派出所の中、小島と恵は三島の上司、加賀屋光俊と三島の作った地図を見ながら話し合っていた。
「するとこの動物虐待とこの間の死体遺棄事件は繋がっていると仰るのですか?」
加賀屋は恵の説明を聞いて疑問を投げかけた。
加賀屋の疑問は的を射ていた。
これまでのところこの二つの事件を結びつけるものは何もない。三島の作った地図と過去の事件を照らし合わせて恵が推理しただけのことだった。
加賀屋が疑問を抱くのは無理もないことなのだ。
だが、小島と恵はほぼ確信に近いものを持っていた。確たる証拠は何もないのだが、二人の『刑事の勘』がそう訴えるのだ。
この二つの事件は繋がっていると…。
加賀屋は地図を見下ろして暫く唸っていた。腕を組みパイプ椅子にもたれて恵の言葉を思い返していた。
「まぁ、動物虐待の件についてはそのままにしておく訳にもいけないでしょう。有機酸の仰る要素があれば尚更です。シフトを替えて三崎のパトロールの時間を増やしましょう」 そうする事で加賀屋は三崎にこの件を捜査させることを暗に約束した。
「お願いします」
小島と恵は頭を下げた。
丁度そのとき、三崎が一人の女性を庇うようにつれて派出所に帰ってきた。いつも使う白い自転車は携えていない。
「おい、どうしたんだ?」
加賀屋が声をかける。
「いえ、そこの角でこの方が急に屈み込んでいまして…」
三崎は連れてきた女性をパイプ椅子に座らせる。女性は青白い顔をして息を乱している。冷や汗も掻いているようだった。
「病院に連れて行った方がよくないか?」
小島が言った。
確かに女性の様子は休ませただけでよくなるとは思えなかった。
「私たちの車で…」
「それがいい。嬢ちゃん、運ぶぞ」
小島は女性を肩に担ぐと恵とともに派出所を出た。
三人を乗せた覆面パトカーはサイレンを鳴らして猛スピードで病院に走り込んだ。
二人は女性を処置室に運ぶとその前の廊下に設置されている古ぼけたソファーに座り込んだ。
「このところいろいろなことがありますね。あまり事件らしいことがない街なのに…」
「ああそうだな。だが俺たちのところにはフィルターにかけられた情報しか集まらない。日常はこういうことが繰り返されているのかもしれないな」
そう言うと小島はポケットから煙草を取り出そうとした。しかし恵にそれを咎められて途中でやめた。
程なくして三崎が彼らのもとに駆けつけた。自転車でよほど急いできたらしく、息が上がっている。
「あの方は?」
「今、処置室の中です。大したことがなければいいのですが…」
恵が閉ざされた扉の方を見る。
その言葉を聞いて三崎は二人の隣に腰を下ろした。汗の匂いが微かに漂ってくる。
三十分ほどして女性は医師を伴って処置室から出てきた。
「具合はどうですか?」
三崎が立ち上がり女性に声をかける。
「ありがとうございます。お陰様でもう大丈夫です」
女性は気丈にそう答えた。
それでもまだ顔色はよくなかった。
医師の話だと彼女は貧血を起こしていたのだという。だが、彼女の話だと特に貧血を起こし体質ではないという。
三崎はその話を聞いて首をかしげた。
「どうした?」
その様子を見て小島が声をかけると三崎は妙なことを口にした。
「いえ、今の女性で三人目なんです。今日貧血で倒れた女性は…」
小島と恵は顔を見合わせた。
「するとこの動物虐待とこの間の死体遺棄事件は繋がっていると仰るのですか?」
加賀屋は恵の説明を聞いて疑問を投げかけた。
加賀屋の疑問は的を射ていた。
これまでのところこの二つの事件を結びつけるものは何もない。三島の作った地図と過去の事件を照らし合わせて恵が推理しただけのことだった。
加賀屋が疑問を抱くのは無理もないことなのだ。
だが、小島と恵はほぼ確信に近いものを持っていた。確たる証拠は何もないのだが、二人の『刑事の勘』がそう訴えるのだ。
この二つの事件は繋がっていると…。
加賀屋は地図を見下ろして暫く唸っていた。腕を組みパイプ椅子にもたれて恵の言葉を思い返していた。
「まぁ、動物虐待の件についてはそのままにしておく訳にもいけないでしょう。有機酸の仰る要素があれば尚更です。シフトを替えて三崎のパトロールの時間を増やしましょう」 そうする事で加賀屋は三崎にこの件を捜査させることを暗に約束した。
「お願いします」
小島と恵は頭を下げた。
丁度そのとき、三崎が一人の女性を庇うようにつれて派出所に帰ってきた。いつも使う白い自転車は携えていない。
「おい、どうしたんだ?」
加賀屋が声をかける。
「いえ、そこの角でこの方が急に屈み込んでいまして…」
三崎は連れてきた女性をパイプ椅子に座らせる。女性は青白い顔をして息を乱している。冷や汗も掻いているようだった。
「病院に連れて行った方がよくないか?」
小島が言った。
確かに女性の様子は休ませただけでよくなるとは思えなかった。
「私たちの車で…」
「それがいい。嬢ちゃん、運ぶぞ」
小島は女性を肩に担ぐと恵とともに派出所を出た。
三人を乗せた覆面パトカーはサイレンを鳴らして猛スピードで病院に走り込んだ。
二人は女性を処置室に運ぶとその前の廊下に設置されている古ぼけたソファーに座り込んだ。
「このところいろいろなことがありますね。あまり事件らしいことがない街なのに…」
「ああそうだな。だが俺たちのところにはフィルターにかけられた情報しか集まらない。日常はこういうことが繰り返されているのかもしれないな」
そう言うと小島はポケットから煙草を取り出そうとした。しかし恵にそれを咎められて途中でやめた。
程なくして三崎が彼らのもとに駆けつけた。自転車でよほど急いできたらしく、息が上がっている。
「あの方は?」
「今、処置室の中です。大したことがなければいいのですが…」
恵が閉ざされた扉の方を見る。
その言葉を聞いて三崎は二人の隣に腰を下ろした。汗の匂いが微かに漂ってくる。
三十分ほどして女性は医師を伴って処置室から出てきた。
「具合はどうですか?」
三崎が立ち上がり女性に声をかける。
「ありがとうございます。お陰様でもう大丈夫です」
女性は気丈にそう答えた。
それでもまだ顔色はよくなかった。
医師の話だと彼女は貧血を起こしていたのだという。だが、彼女の話だと特に貧血を起こし体質ではないという。
三崎はその話を聞いて首をかしげた。
「どうした?」
その様子を見て小島が声をかけると三崎は妙なことを口にした。
「いえ、今の女性で三人目なんです。今日貧血で倒れた女性は…」
小島と恵は顔を見合わせた。