哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
佐伯絵美は誰よりも早く学校に行くのが好きだった。騒がしいはずの校内がしーんと静まりかえっていて自分だけがその世界の住人のような気がして気持ちが落ち着くのだ。
姉の佐枝はそんな絵美のことを「変わり者」という評価をしているが、彼女にとってそれは何に意味もなさなかった。
絵美には友達が少なかった。
社交的な姉と比べて彼女は人に対して少し臆病なところがあった。とはいえ、虐められているいうことはなかった。普段は大人しいのだが、いざとなると誰も寄せ付けない強さがあった。クラスメート達はその事をよく知っていて誰も彼女に手を出そうとはしなかった。
そんな彼女にも心を許せる友達はいた。同じクラスの武藤真理恵だ。彼女は絵美と違って社交的で時間にはルーズだった。だから学校にはいつも遅刻寸前で登校してくるといった始末だった。
午前七時三十分、絵美はいつものように教室のランドセルを置くと校庭の片隅にあるウサギ小屋に向かった。
校庭を横切るとき顔見知りの用務員が「おはよう絵美ちゃん」と声をかけてきたので絵美は軽く会釈をした。
ウサギ小屋には上級生達が世話をしている数匹のウサギがいて絵美はそれを眺めるのが好きだった。ウサギの方もそれを知っているのか、毎朝絵美が姿を見せると一斉に彼女の方に視線を投げてきた。
だが、その朝はいつもとは違っていた。
ウサギ小屋に近づくにつれて絵美はただならぬ雰囲気を感じた。いつものような動物の体温を思わせるほのかな暖かさは全くなく、淀んだ鉄の味を思わせる匂いが辺りに充満していた。
絵美はただならぬ物を感じて自然に身構えた。何か怖いことがこの先に潜んでいる。絵美の心は彼女に行くなと警告していた。それを恐怖と呼ぶものならば、彼女がこれまでの人生の中で一番大きなものだった。
それでも絵美はウサギのことが気になった。この異様な状況に巻き込まれているのはウサギ達なのだ。
絵美は勇気を出してウサギ小屋に歩みを進めた。口元で合わせた手が震え、息が震え、歯がかちかちと音を立てた。
そしてウサギ小屋に辿り着いたとき、絵美はこれまでにない凄惨な光景を目にしてしまった。
ケージの中で飼われていたウサギがすべて無残に切り刻まれて死んでいたのだ。鉄の味をした匂いは辺りに撒き散らされたそれらの血の匂いだった。
「…!…」
絵美は声にならない悲鳴を上げてその場に倒れ込んでしまった。
姉の佐枝はそんな絵美のことを「変わり者」という評価をしているが、彼女にとってそれは何に意味もなさなかった。
絵美には友達が少なかった。
社交的な姉と比べて彼女は人に対して少し臆病なところがあった。とはいえ、虐められているいうことはなかった。普段は大人しいのだが、いざとなると誰も寄せ付けない強さがあった。クラスメート達はその事をよく知っていて誰も彼女に手を出そうとはしなかった。
そんな彼女にも心を許せる友達はいた。同じクラスの武藤真理恵だ。彼女は絵美と違って社交的で時間にはルーズだった。だから学校にはいつも遅刻寸前で登校してくるといった始末だった。
午前七時三十分、絵美はいつものように教室のランドセルを置くと校庭の片隅にあるウサギ小屋に向かった。
校庭を横切るとき顔見知りの用務員が「おはよう絵美ちゃん」と声をかけてきたので絵美は軽く会釈をした。
ウサギ小屋には上級生達が世話をしている数匹のウサギがいて絵美はそれを眺めるのが好きだった。ウサギの方もそれを知っているのか、毎朝絵美が姿を見せると一斉に彼女の方に視線を投げてきた。
だが、その朝はいつもとは違っていた。
ウサギ小屋に近づくにつれて絵美はただならぬ雰囲気を感じた。いつものような動物の体温を思わせるほのかな暖かさは全くなく、淀んだ鉄の味を思わせる匂いが辺りに充満していた。
絵美はただならぬ物を感じて自然に身構えた。何か怖いことがこの先に潜んでいる。絵美の心は彼女に行くなと警告していた。それを恐怖と呼ぶものならば、彼女がこれまでの人生の中で一番大きなものだった。
それでも絵美はウサギのことが気になった。この異様な状況に巻き込まれているのはウサギ達なのだ。
絵美は勇気を出してウサギ小屋に歩みを進めた。口元で合わせた手が震え、息が震え、歯がかちかちと音を立てた。
そしてウサギ小屋に辿り着いたとき、絵美はこれまでにない凄惨な光景を目にしてしまった。
ケージの中で飼われていたウサギがすべて無残に切り刻まれて死んでいたのだ。鉄の味をした匂いは辺りに撒き散らされたそれらの血の匂いだった。
「…!…」
絵美は声にならない悲鳴を上げてその場に倒れ込んでしまった。