哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
小学校
信は担任の岡崎有紀と共に黒板の前に立っている。教室内の生徒達が好奇の視線を信に向けている。それがフードを被った中からでも信にはわかった。いつものことなのだ、このようなことは信は何度となく経験している。いつの世になっても、人間とは進歩をしないものだなと彼は思っていた。
有紀は信が転校をしてきたこと、彼が日光を浴びることの出来ない病気であることを生徒達に説明した。
好奇の視線の一部が同情に変わった。
これもいつものことだ…、すぐに異質なものを排除しようとし始める…。信は溜め息をついた。
だが、その中で信は自分に好意を寄せている視線を感じ取った。
佐伯絵美だった。
そう、彼は彼女とともにいられる時間を出来るだけ持ちたいと思い、学校に通うことを決意したのだ。
今日はその第一歩なのだ。
失敗してはならない。必要のないことまで知られてはならない。信は自分に言い聞かせた。
一通り紹介が終わると信に空いた席に座るように有紀が促した。指定された席は絵美の隣だった。それは信にとってありがたいことだった。この学校のことを気軽に訊けるからだ。
絵美もまた信が隣に来たことを喜んでいるようだ。微笑みながら信に小さく手を振ってくる。信もまた席に着くときに小さく手を振ってそれに応える。
「学校、通うことにしたんだね」
絵美が小声で話しかけてくる。
「うん、病気もよくなってきたからね」
信もまた小声で答える。
周囲の生徒が小声で何かを話し始める。
そんなとき、一時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。
授業の内容は心配していたほど問題ではなかった。これまで春海が彼の勉強をみてくれていたし、何より彼は本を読むことが好きだった。昼間外に出られない時間を信は春海が図書館で借りてきてくれていた本を読んで過ごしていた。その成果なのか、信は小学校高学年程度の学力は身につけていた。
生徒達は静かに有紀の話を聞き、時折彼女が挟む冗談に笑ったりした。
一時間目の授業は何事もなく終わった。
次の授業までの短い休み時間、絵美は数少ない友達の武藤真理恵を信に紹介した。
真理恵は絵美とは対照的に社交的で明るい女子生徒だった。クラスの誰にも好かれているようだった。そんな真理恵だが、絵美といる時間は大切にしているようだった。絵美もまた真理恵と同じ気持ちのようだった。
「ねえ、遠山君はどこから来たの?」
誰もが訊く最初の質問を真理恵がぶつけてきた。
信は答えに困った。これまであまりに多くの場所を転々としてきたので、どう答えたらいいのかわからないのだ。それに答え方を誤り変に好奇心を持たれても困る。
「北の方にいたんだ。病気のせいでお日様には弱いからね」
信は当たり障りの無いように応えた。
「北のどの辺?」
真理恵は食い下がってくる。
「うん、僕入院していたからよく知らないんだ」
信はそう言って煙に巻く。
そんなとき、一人の小柄な生徒が一枚の紙片を黙って信に渡した。
彼が去って行く方を見ると大柄な体格の生徒がこちらを睨み付けている。
信にはそれだけで紙片に書かれた内容は理解できた。
それでも念のため紙片を開いてみる。
『次の休み時間、校舎裏まで来い』
やはり思った通りの内容だった。これまで何度となく同じ内容の手紙を信は受け取っていた。そしてその度に信は言われたとおりにして彼らの思うとおりにさせてきた。面倒なことに巻き込まれたくない。その一心からしたことだった。だが、それは間違っていたのかもしれない。信はそう思い始めていた。
有紀は信が転校をしてきたこと、彼が日光を浴びることの出来ない病気であることを生徒達に説明した。
好奇の視線の一部が同情に変わった。
これもいつものことだ…、すぐに異質なものを排除しようとし始める…。信は溜め息をついた。
だが、その中で信は自分に好意を寄せている視線を感じ取った。
佐伯絵美だった。
そう、彼は彼女とともにいられる時間を出来るだけ持ちたいと思い、学校に通うことを決意したのだ。
今日はその第一歩なのだ。
失敗してはならない。必要のないことまで知られてはならない。信は自分に言い聞かせた。
一通り紹介が終わると信に空いた席に座るように有紀が促した。指定された席は絵美の隣だった。それは信にとってありがたいことだった。この学校のことを気軽に訊けるからだ。
絵美もまた信が隣に来たことを喜んでいるようだ。微笑みながら信に小さく手を振ってくる。信もまた席に着くときに小さく手を振ってそれに応える。
「学校、通うことにしたんだね」
絵美が小声で話しかけてくる。
「うん、病気もよくなってきたからね」
信もまた小声で答える。
周囲の生徒が小声で何かを話し始める。
そんなとき、一時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。
授業の内容は心配していたほど問題ではなかった。これまで春海が彼の勉強をみてくれていたし、何より彼は本を読むことが好きだった。昼間外に出られない時間を信は春海が図書館で借りてきてくれていた本を読んで過ごしていた。その成果なのか、信は小学校高学年程度の学力は身につけていた。
生徒達は静かに有紀の話を聞き、時折彼女が挟む冗談に笑ったりした。
一時間目の授業は何事もなく終わった。
次の授業までの短い休み時間、絵美は数少ない友達の武藤真理恵を信に紹介した。
真理恵は絵美とは対照的に社交的で明るい女子生徒だった。クラスの誰にも好かれているようだった。そんな真理恵だが、絵美といる時間は大切にしているようだった。絵美もまた真理恵と同じ気持ちのようだった。
「ねえ、遠山君はどこから来たの?」
誰もが訊く最初の質問を真理恵がぶつけてきた。
信は答えに困った。これまであまりに多くの場所を転々としてきたので、どう答えたらいいのかわからないのだ。それに答え方を誤り変に好奇心を持たれても困る。
「北の方にいたんだ。病気のせいでお日様には弱いからね」
信は当たり障りの無いように応えた。
「北のどの辺?」
真理恵は食い下がってくる。
「うん、僕入院していたからよく知らないんだ」
信はそう言って煙に巻く。
そんなとき、一人の小柄な生徒が一枚の紙片を黙って信に渡した。
彼が去って行く方を見ると大柄な体格の生徒がこちらを睨み付けている。
信にはそれだけで紙片に書かれた内容は理解できた。
それでも念のため紙片を開いてみる。
『次の休み時間、校舎裏まで来い』
やはり思った通りの内容だった。これまで何度となく同じ内容の手紙を信は受け取っていた。そしてその度に信は言われたとおりにして彼らの思うとおりにさせてきた。面倒なことに巻き込まれたくない。その一心からしたことだった。だが、それは間違っていたのかもしれない。信はそう思い始めていた。