哀しき血脈~紅い菊の伝説3~
 次の休み時間、信は言われたとおり校舎裏に向かった。そこは明るい日が差す表側と異なり、薄暗く陰湿な雰囲気を漂わせていた。
 それは信にとって都合がよかった。
 呼び出された場所に着くとそこには数人の男子生徒がおり、その中央に先ほどの大柄な生徒が立っていた。相変わらず信を睨み付けている。
「お前、佐伯とはどういう関係だ?」
 男子生徒は信を見下すように言った。
「別に、君には関係がない」
 信は挑発的に応える。
「随分生意気な口をきくじゃないか」
 男子生徒は不敵な笑いを浮かべながら信に近づいてくる。
 よくあるパターンだ。信は心の中で笑った。
 「何がおかしいんだ?」
 周囲の生徒達も近づいてくる。
 正面から近づいてくる大柄な生徒が大きな動作で信に殴りかかってくる。
 信はそれを紙一重で躱してみせる。
 大柄な生徒は体勢を崩して倒れ込む。
「この野郎!」
 周囲の生徒達が一斉に掴みかかってくる。
 信はそれらを軽いステップで躱すと彼らの背後にたった。
 呼吸一つ乱れていない。
 大柄な生徒は体勢を立て直して再び信に掴みかかってくる。
 その生徒の目の前に信は右手を突き出して大きな声で叫んだ。
 それとともに大柄な生徒はまるで空気にはじかれたように後ろに弾き飛ばされた。
 顔を隠していたフードがめくれ信の素顔が曝された。
 その目が赤く輝いている。
 周囲の生徒達は恐怖のあまりその場に固まった。
 そんな彼らの前で信はその身体を霧状に変化させていった。
 霧は空気の流れに逆らい大柄な生徒の身体に巻き付いていく。そしてその生徒の眼前に信の笑った顔が浮かび上がる。
「ひっ」
 生徒は声にならない悲鳴を上げる。
「僕に構わないでくれないか?」
 信は冷たい息を生徒に吹きかける。
「これ以上僕に構うと殺しちゃうよ」
 霧は生徒から離れて再び信の姿に戻った。
「みんなも僕に構わないでくれ。僕は普通に学校生活がしたいんだから」
 生徒達は震えながら頷く。
「それから、ここで起きたことは内緒だよ。誰かに話したりしたら殺しちゃうからね」
 信は再びフードを被ると校舎裏から去って行った。
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